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外国子会社合算税制の「特殊関係非居住者」の親族の定義-令和5年3月16日東京地判の概要と実務への影響~

2025.05.01

令和5年3月16日、東京地方裁判所は、内国法人が保有する外国法人に対して外国子会社合算税制を適用した税務署長の更正処分を支持する判決を下しました。本件では、株式を保有する日本国籍の日本非居住者が「特殊関係非居住者」に該当するか否かが争点となり、裁判所は租税法令の「居住者の親族」という条文文言を重視し、生計支援の有無に関わらず広く親族に該当する非居住者を「特殊関係非居住者」と認定しました。

本ニュースレターでは、本判決の内容を紹介するとともに、外国子会社合算税制における「特殊関係非居住者」の判定実務への影響について考察します。

1. 外国子会社合算税制と特殊関係非居住者とは?

1.1. 制度の概要 

外国子会社合算税制は、内国法人や居住者が、軽課税国に設立された外国法人を通じて所得を留保することで、日本国内での課税を回避することを防止するために導入されました。租税特別措置法66条の6に基づき、軽課税国にある特定の外国子会社の所得は、内国法人の益金に合算されます。ただし、一定の事業実態がある場合は適用除外となります。特定外国子会社等に該当するかは、出資比率・実質税負担率・特殊関係非居住者の関与等により判断されます。

1.2. 特殊関係非居住者とは

租税特別措置法施行令に基づき、「特殊関係非居住者」とは、居住者や内国法人と一定の関係にある非居住者を指します(旧39条の14第3項、現39条の14第6項)。具体的には以下のような者が該当します。

  • 居住者の親族
  • 居住者の使用人
  • 内国法人の役員 など


2.判決の概要

2.1. 事実の概要

本件の原告は、日本に本店を有し、海運業を営む株式会社です。同社はシンガポール法人(以下「C社」)に対して50%の株式を保有しており、残りの50%は英領バージン諸島法人(R社)が保有していました。R社の全株式は、非居住者であるA氏が所有していました。

A氏は原告の株主の親族ではありませんでしたが、税務署は、A氏を「特殊関係非居住者」(旧措置法施行令39条の14第3項、現39条の14第6項)に該当するとし、C社を外国子会社合算税制の対象となる「特定外国子会社等」と認定し、原告に対して各事業年度分の更正処分及び加算税の課税を行いました。
これを不服として、令和2年1月31日、原告は各処分の取り消しを求めて提訴しました。

【ポイント】ここで注目されたのは、A氏が「特殊関係非居住者」に該当するか、すなわちA氏は原告の株主の親族ではないという事だけではなく、日本居住の親族がひとりでもいればC社は原告の特定外国子会社としてとなるのか?という点です。外国法人(ジョイントベンチャーなど)の株式を日本国籍の非居住者が保有する場合、多くは日本になんらかの親族が居住していることが考えられ、このような外国法人が課税の対象となるりうるのかという問題です。本件では、条文上の「居住者の親族」をどのように解釈するかをめぐり争われました。

2.2. 主な争点と裁判所の判断

(1) A氏が「特殊関係非居住者」(居住者の親族)に該当するか 
原告は、A氏には居住者である親族が複数存在するが、これらの者との人間関係は希薄であり、生計を維持される関係はなく、形式的な親族関係のみでは「特殊関係非居住者」には該当しないと主張した。→ 裁判所は、「親族」とは民法725条の定める範囲(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)であり、支援関係の有無によって限定するべきではないと判断。A氏は特殊関係非居住者に該当するとした。

(2) 確定申告書に適用除外記載書面の添付が必要か 
原告は、C社が特定外国子会社等に該当するとしても適用除外要件を満たしているときは、申告時に適用除外記載書面を添付しなかったことは不問とすべきと主張。→ 裁判所は、法は確定申告書に適用除外記載書面を添付している場合に限り適用除外規定を適用する旨を定めており、書面添付は適用除外規定の手続的要件であると判断。

(3) 書面未添付に「やむを得ない事情」があるか 
原告は、申告時に適用除外記載書面を添付しなかったのは、C社が特定外国子会社等に該当しないと判断していたためであり、「やむを得ない事情」があると主張。

→ 裁判所は、「やむを得ない事情」とは本人の責めに帰することのできない客観的事情をいうものと解すべきであり、法の不知や事実誤認等の主観的事情はこれに当たらないとし、原告は「居住者の親族」の解釈を誤ったもので客観的事情とはいえず、提出義務の免除は適用されないとした。

2.3. 結論

原告の請求はすべて棄却。A氏は「特殊関係非居住者」として認定され、非関連者基準も満たしていないことから、C社の所得は原告の益金に合算すべきものと認定された。また、適用除外記載書面を添付することなく適用除外規定が適用されることはないと明らかにされた。

3. 判決の意義と実務上のインパクト 

本判決は、特殊関係非居住者における親族の解釈や制度の趣旨について整理されたという点で意義を有しており、実務へも大きな影響を与えています。

まず、親族の解釈について、民法725条の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)に基づき定義するべきか否かが争われ、原告は、形式によらず経済的援助を受けている者に限定すべきと主張しました。

これに対して、裁判所は、特殊関係非居住者の規定は、「非居住者が株式等を分散保有する場合を捕捉して外国子会社合算税制の潜脱を回避するという…立法趣旨」があり、仮に親族を生計を維持している者に限定すれば、「居住者が、生計を維持する関係にない親族である非居住者を利用して…特定外国子会社等の該当性と係る判断をする際に考慮することができなくなるところ、…上記立法趣旨に反する」と述べています。

原告は、実質的に生計を共にしない親族までも形式的にカウントすれば、ジョイントベンチャー等の正常な経済活動が阻害され、多数存在するジョイントベンチャーの税務関係を見直す必要が生ずるとの理由も主張しました。これに対し、裁判所は一定のジョイントベンチャーが外国子会社合算税制の対象となり、一定の負担ないし支障が生ずるとしても同税制が想定する範囲内のものとして、「居住者の親族」に明文にない限定を加えるべき理由とはならないと述べています。

以上のように、裁判所は同法の立法趣旨にも鑑み、裁判所は「居住者の親族」の解釈について、広範で形式的な適用を肯定しました。実務上は従前よりも外国子会社合算税制の捕捉対象が広くなりうることに留意が必要です。

【ポイント】具体的には、海外在住者であっても民法725条に定める親族が日本にいるケースは多いと考えられ、従って、今後日本に親族を持つ海外在住者(日本非居住者)が日本の居住者ないしは内国法人と共同で外国法人を保有する場合では、外国法人の株主に特殊関係非居住者が存在しないことを確認する必要があります。外国法人の株主が外国籍の方であったとしても特殊関係非居住者である可能性がないとは言えません。

4. 終わりに

本判決は、外国子会社合算税制の適用において「特殊関係非居住者」の範囲や、適用除外規定の運用について明確な判断を示したものとして注目されます。形式的な株式保有関係や書面提出義務の重要性が強調される中、企業においては、海外子会社との関係性や申告時の添付資料の整備がこれまで以上に求められる時代となりました。今後の税務対応においては、取引の設計段階から税務リスクの洗い出しと事前対策を講じるとともに、ストラクチャー構造の透明性確保が一層重要となります。本ニュースレターが、皆様の実務に少しでもお役に立てば幸いです。

About the writer

ASA Professionals Singapore
土井迫 宏樹
ASA Professionals Singapore
土井迫 宏樹

【経歴】

広島県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒。

2008年に有限責任 あずさ監査法人に入所し、地方銀行をはじめとした国内企業の会計監査業務に従事。2020年よりASA Professionals Singaporeにて日系企業のシンガポール進出支援や各種アドバイザリー業務、財務DDや株価評価等のFAS業務に従事している。

専門は海運業のクロスボーダー取引にかかる会計税務アドバイザリー。大のカープ・サンフレッチェファン。生まれ育った瀬戸内海の産業に携わり、多くの方をサポートできるよう、シンガポールの地で挑戦しています。

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