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外国子会社合算税制 ~所得税編~

2025.01.01

今回は、昨年いくつか質問を受けた中から留意頂いた方がよい論点を紹介します。タックスヘイブン対策税制としてご存知の方も多い日本の税制である「外国子会社合算税制」について、所得税の観点からみていきたいと思います。2024年、日本居住者の方が税務調査により、この税制に関する多額の申告漏れを指摘されたというニュースが新聞等紙面を賑わしましたので、この場をお借りして税制の概要説明を致します。

外国子会社合算税制とは

1.  制度概要

外国子会社合算税制(以下、「タックスヘイブン対策税制」)は、日本の内国法人または居住者が軽課税国に設立された法人(以下、「外国関係会社」)の株式等を一定数保有する場合、外国関係会社の所得を株主である内国法人または居住者の所得とみなして、日本で法人税または所得税を課税するという制度です。

タックスヘイブン対策税制の対象となる要件は次の通りです。

・外国関係会社に該当するかどうか
外国法人が、内国法人及び居住者等に50%超を直接または間接に支配される法人であること。つまり、日本の法人または個人で株式等の50%超を保有するかどうかにより判断します。

・課税の対象(会社単位の合算対象)となる外国関係会社に該当するかどうか
① 特定外国関係会社
租税負担割合27%未満の国に所在するペーパーカンパニー等に該当する外国法であること。
② 対象外国関係会社
租税負担割合20%未満の国に所在する経済活動基準を満たさない外国法人であること

・外国子会社合算税制の対象となる内国法人または居住者か
外国関係会社の発行株式等、議決権の数、または配当請求権のいずれか10%以上を直接または間接に保有する内国法人または居住者であること

タックスヘイブン対策税制の対象になると、特定外国関係会社または対象外国関係会社が稼得した所得の所定の金額が株主の所得として課税されます。タックスヘイブン対策税制の判定フローをまとめると次のような判定フローになります

2.  法人株主のみではなく個人株主にも適用される

前述の通り、タックスヘイブン対策税制は日本の内国法人および居住者に対し適用されます。つまり、法人税のみではなく所得税にも当該税制は規定されています。よくご相談を受ける事例としては、

  1. 日本にお住まいの個人が、シンガポール法人の100%株主であり、シンガポール法人のプライベートバンキング口座等を開設し投資運用を行っているケース
  2. 日本にお住まいの個人が、BVI法人を設立し、暗号資産を保有しているケース。
  3. シンガポールと日本にそれぞれお住まいのご夫妻がシンガポール法人の株式をご夫妻で100%保有しているケース

これらのケースはいずれも所得税法が規定するタックスヘイブン対策税制の対象になります。

3.  個人にタックスヘイブン対策税制が適用された場合

(1)所得区分と税率
個人が所得税法の規定によりタックスヘイブン対策税制の課税を受けると、対象となる課税所得は「雑所得」として取扱われます。雑所得は総合課税の対象となり、所得金額に応じて累進税率が適用され最大45%の所得税と10%の住民税をあわせて55%の税率で課税されることになります。
つまり、個人にタックスヘイブン対策税制が適用されると、特定外国関係会社または対象外国関係会社の所得が大きければ大きいほど適用される税率が高くなり、所得税負担が非常に大きくなります。

(2)課税の時期
タックスヘイブン対策税制の適用を受ける場合、特定外国関係会社または対象外国関係会社の決算期により課税のタイミングが決定されます。各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日の属する年分の雑所得とみなされ、雑所得の計算上、総収入金額に算入されることになります。

例. 対象外国関係会社であるシンガポール法人A社の決算期が2月であり、日本居住者であるB氏がA社の100%株主であるケース

A社の事業年度: 2023年3月1日~2024年2月29日

2月経過する日: 2024年4月30日

A社の所得はB氏の2024年分の雑所得とみなして課税される

B氏は2025年3月15日までに確定申告と納税を行う

(3)配当にかかる二重課税の調整
タックスヘイブン対策税制の対象となった日本居住者が、実際に特定外国関係会社または対象外国関係会社から配当を受け取るケースを見ていきましょう。

居住者が外国法人から配当を受ける場合、配当所得として日本の所得税が課税されます。外国法人が非上場である場合には、その配当所得は総合課税にて課税されます。配当を行う外国法人が、特定外国関係会社または対象外国関係会社に該当する場合は、タックスヘイブン対策税制により雑所得課税を受け、加えて配当受領時においても配当所得に課税されることになり、実質的に二重に所得税が課税されることになります。
この二重課税の問題を調整するため、居住者が特定外国関係会社または対象外国関係会社から配当を受け取る場合には、原則としてタックスヘイブン対策税制の課税対象金額として雑所得に算入した金額を限度とし、受け取る配当金額を配当所得から控除する仕組みが設けられています。ただし、この調整計算を適用し控除できる期間には制限があり、タックスヘイブン対策税制の適用を受けたあと3年間における配当に限定されています。この調整計算を図示すると次のようになります。

(設例)
A 社はシンガポール法人(対象外国関係会社に該当)であり、日本居住者であるB氏が株主であるケース
A 社の事業年度:2023年3月1日~2024年2月29日(2024年3月期)
2024年2月期におけるA社の課税対象金額: 10,000
2025年2月期におけるA社の課税対象金額: 0
2025年中にA社が決議し支払った配当金額:   8,000

B 氏の各年度における所得税計算

 2024年分2025年分備考
雑所得  10,0000 
配当所得   8,000 
配当所得から控除する額 ‐8,000課税された課税対象金額を限度に控除可能
所得合計  10,0000 

4.  個人の場合は外国税額控除の適用はない

特定外国関係会社または対象外国関係会社が配当を行う際、法人の所在国で源泉税(以下、「外国源泉税等」)が課されている場合ですが、所得税を計算する上で当該外国源泉税等の額を外国税額控除の対象とすることはできず、二重課税の状態になります。
また、法人税では認められている外国子会社合算税制の適用を受けた場合の外国税額控除の制度も、所得税法上は設けられておらず、個人が株主である場合は課税が重いことがわかります。

【おわりに】
今回はタックスヘイブン対策税制を所得税の観点からみていきました。当然のことながら、シンガポール法人もタックスヘイブン対策税制の対象になります。移住や海外事業進出にあたりシンガポール法人設立の相談を頂く際に、株主構成をどうしたらよいかという相談をよく受けます。就労ビザや銀行口座開設など各論点によって最適解は異なりますが、タックスヘイブン対策税制の観点からも株主構成の決定は非常に重要な検討課題といえます。そのため、専門家のアドバイス等を受けた上で株主構成を決定されることをお勧めいたします。
また、間もなく日本も確定申告の時期を迎えますので、もしタックスヘイブン対策税制の対象となる方は適正な税務申告を行っていただければと思います。

About the writer

ASA Professionals Singapore
片岡 宏将
ASA Professionals Singapore
片岡 宏将

【経歴】
静岡大学大学院人文社会科学研究科修了。2002年アタックス税理士法人に入社し、法人の税務顧問業務を中心に中小企業から上場会社まで幅広い法人を担当。

クライアントとの直接対話をモットーに、税務顧問、国際税務業務、税務コンサルティング業務等のプロジェクトマネージャーに従事。2019年5月よりASA Professionals Singaporeで、日本とシンガポール間における法人税や資産税にかかるクロスボーダー案件を担当。

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