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シンガポール会計頻出論点
【目次】
~日本会計基準との違い~
1.はじめに
シンガポール法人の決算書を見ていると、「日本では見慣れない会計処理だ」と感じる場面があります。実際、シンガポールでは国際会計基準に準拠した会計基準(SFRS)が採用されており、日本会計基準とは異なる考え方や論点が存在します。
これらの違いは単なる会計上の問題ではなく、利益水準や資産負債の見え方、さらには税務にも影響を与えることがあります。
本稿では、シンガポールで事業を行う日本企業が押さえておきたい、SFRSと日本会計基準(J-GAAP)との違いに関する頻出論点について分かりやすく解説します。
2.連結財務諸表作成義務
日本では、主に上場会社等が連結財務諸表作成義務を負う一方、シンガポールでは、SFRS第110号に基づき、親会社が子会社を支配している場合、原則として連結財務諸表の作成が求められます。
ただし、一定の要件を満たす中間持株会社等については、連結財務諸表の作成が免除される場合があります。例えば、親会社が100%子会社であり、上位親会社が連結財務諸表を作成しており、外部関係者にとっても一般的に利用可能であるケースなどが該当します。
また、投資を主たる事業とする「投資企業(Investment Entity)」については、通常の事業会社とは異なり、子会社を連結せず、公正価値で測定する特例が認められています。
シンガポール法人をグループ内に保有している場合は、現地の連結要否を早い段階で確認することが重要です。
3.決算日の統一
SFRSでは、連結財務諸表を作成する際、原則として親会社と子会社は同一の決算日(報告日)の財務情報を使用することが求められます。子会社の決算日が異なる場合には、親会社の決算日に合わせた追加財務情報を作成する必要があります。
一方、J-GAAPでは、親会社と子会社の決算日の差異が3か月以内であれば、子会社の財務諸表をそのまま連結に使用することが認められています。
例えば、親会社の決算日が12月末、子会社の決算日が9月末であっても、日本では一定の調整を行うことで連結が可能ですが、SFRSでは原則として12月末時点での財務情報を準備しなければなりません。
4.非上場株式の評価
SFRSでは、非上場株式などの資本性金融商品について、原則として公正価値(時価)で評価することが求められます。
また、企業は投資時に、評価損益を「損益計算書(PL)」に計上する方法と、「その他の包括利益(OCI)」に計上する方法のいずれかを選択できます。
OCIオプションを選択した場合、株価の変動による評価損益は当期利益に影響せず、その他の包括利益として資本に計上されます。一方、OCIオプションを選択しない場合は、評価損益が直接損益計算書に反映されるため、利益が株価変動の影響を受けやすくなります。
これに対し、J-GAAPでは、非上場株式は原則として取得原価で評価されます。そのため、投資先企業の価値が上昇した場合でも、その評価益を財務諸表に反映することはありません。一方で、投資先の業績悪化等により実質価額が著しく下落した場合には、減損損失の計上が必要となります。
5.固定資産の減価償却
SFRSでは、固定資産の減価償却期間や償却方法は、資産が実際に使用される期間や経済的便益の消費パターンに基づいて決定することが求められます。また、耐用年数や残存価額については毎期見直しを行い、重要な変化があれば将来に向かって変更しなければなりません。
一方、J-GAAPでは、実務上、法人税法上の耐用年数や償却方法を採用するケースが多くみられます。そのため、会計上の見積もりよりも税務上の取扱いが基準となることが少なくなりません。
例えば、同じ設備であっても、実際の使用状況に応じてSFRSでは耐用年数を変更する一方、日本では税務上の耐用年数を継続して使用するケースがあります。
そのため、シンガポール法人では、税法ではなく資産の経済的実態に基づいて減価償却方法や耐用年数を設定・見直す必要がある点に留意が必要です。
6.機能通貨
SFRSでは、企業ごとに「機能通貨(Functional Currency)」を決定することが求められます。機能通貨とは、企業の営業活動や資金調達などの経済活動に最も大きな影響を与える通貨を指します。
例えば、シンガポール法人であっても、売上・仕入・資金調達の大部分が米ドル建てて行われている場合には、機能通貨を米ドルとすることがあります。その場合、財務諸表はまず米ドルで作成され、必要に応じてシンガポールドル等の表示通過へ換算されます。
一方、J-GAAPでは、実務上は日本円で財務諸表を作成するケースが一般的であり、IFRSほど機能通貨の概念が重視されていません。
そのため、海外子会社や国際取引の多い企業では、SFRSにおいて機能通貨の判定が重要な論点となります。特に海運業や商社など、取引の大半が米ドル建てで行われる業種では、所在地の通貨と機能通貨が異なるケースも少なくありません。
7.会計監査
シンガポールでは会社法207条に基づき、会計監査人を選任したうえで、年に一度会計監査を受ける必要があります。しかし、一定規模以下の法人には監査免除が認められており、要件は2会計期間連続で以下の3つの要件のうち2つを満たす必要があります。
・年間売上高がSGD10M以下であること
・総資産額がSGD10M以下であること
・従業員が50人以下であること
こちらの判定はシンガポール法人の親会社も含めた連結グループでの判定となります。
一方、日本では会社法監査の要件は、資本金5億以上または負債200億以上を満たした場合となり、シンガポールの基準と比較して大規模会社が対象になります。
8.おわりに
本稿では、SFRSとJ-GAAPの違いについて頻出論点に絞り、ご紹介しました。
シンガポールで採用されているSFRSはIFRSとほぼ同等の内容であり、J-GAAPとの間には、さまざまな差異が存在します。
もっとも、J-GAAPは近年、国際的な会計基準との整合性を高めるため、継続的にIFRSへのコンバージェンス(収斂)が進められており、過去と比較すると両者の差異は縮小する傾向にあります。
シンガポール会計基準への対応、日本本社向けの連結パッケージ作成、会計基準差異の整理などでお困りのことがございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。
About the writer
土井迫 宏樹
【経歴】
広島県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒。
2008年に有限責任 あずさ監査法人に入所し、地方銀行をはじめとした国内企業の会計監査業務に従事。2020年よりASA Professionals Singaporeにて日系企業のシンガポール進出支援や各種アドバイザリー業務、財務DDや株価評価等のFAS業務に従事している。
専門は海運業のクロスボーダー取引にかかる会計税務アドバイザリー。大のカープ・サンフレッチェファン。生まれ育った瀬戸内海の産業に携わり、多くの方をサポートできるよう、シンガポールの地で挑戦しています。
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