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よくある税務相談~国外転出時課税(出国税)+富裕層ミニマムタックス編~
【目次】
はじめに
早いもので2026年も第2四半期に入りました。日本企業では新年度を迎え、人事異動により新しくシンガポールへ赴任された方、また、日本へ帰任された方など多くいらっしゃると思います。
さて、2026年のニュースレターは、よくある税務相談シリーズでお届けしています。前回の、海外移住編に関しては、居住者/非居住者の判定に関し、配信後に複数のご相談を頂きました。今回は、海外移住時の頻出論点である「国外転出時課税(出国税)」についてお話しします。また、3月31日に2026年度税制改正が国会の審議を経て成立したこともあり、出国税に加えて、2025年度から導入され、2027年から課税強化される富裕層向けのミニマムタックスの論点も併せてみていきます。
今回のテーマに限らず、刷新した弊所ホームページには問い合わせ機能を設けています。有償になりますが、個別にご相談がある場合はお気軽にご連絡ください。
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【国外転出時課税(出国税)とは】
1.概要
2015年7月1日以降の国外転出に対して適用する制度として創設されました。具体的には、国外転出時点において、1億円以上の有価証券等の対象資産を保有している場合、その対象資産の含み益に所得税を課税する制度です。国外転出により実際に有価証券等を売却等するわけではありませんが、売却等を行ったと「みなし」て含み益に課税する税制です。
対象資産には、上場株式をはじめ、非上場の株式も含まれますので、同族会社等の株式を保有されている方の課税インパクトは大きくなる傾向にあります。
出国税の課税対象に関しては、「現預金は対象になるの?」、「不動産に出国税は課税される?」、「暗号資産は?」といったご質問をよく受けます。前述の通り、出国税については有価証券等が対象であり、厳密には金融商品取引法第2条1項、所得税法施行令第4条が規定する有価証券が対象になります。暗号資産については、現行の制度下では出国税の対象になりませんが、今後、暗号資産の規制が金融証券取引法下に改正される際には、出国税の適用対象として制度改正される可能性があるため、ご留意ください。
2.申告及び納税等の対応
(1)納税管理人を選任する場合
国外転出に伴い、国外転出の日までに納税管理人を選任する場合は、①出国税を納税する方法と②納税猶予を選択する方法の二通りが対応となります。納税管理人の選任にあたっては所管する税務署へ届出の提出が必要になります。
①出国税を納税する場合
国外転出する年の翌年の3月15日までに、所得税の申告と出国税を含めた所得税の納税が必要になります。この場合、出国税が課税される含み益は、取得価額と国外転出時の時価との差額になります。
②納税猶予を選択する場合
一時的な移住のケースなど日本へ帰国することが予定されている場合には、出国税を納税する対応に加え、納税猶予を選択することができます。納税猶予の適用を受ける場合、国外転出の日から5年間は出国税の納税が猶予されます。さらに、5年間の延長が可能になり、最大で10年間は出国税を猶予することが可能です。なお、納税猶予を選択するためには、納税管理人の選任に加え、利子税を含めた納税額に対する担保提供が必要など様々な手続き、関連の書類提出が必要になります。実際に検討される場合は、専門家の助言を受けられることをお勧めします。
(2)納税管理人を選任しない場合
実務上は稀なケースですが、納税管理人を選任しない場合は、国外転出時の日までに所得税の申告と納税が必要になります。このケースでは、国外転出の日までに国外転出時の時価を算出することは困難なため、出国税が課税される含み益は、取得価額と国外転出日の3か月前の日の時価との差額になります。
3.留意点
出国税の対応に当たっては、対象資産の特定、時価の算出、申告等対応方法の検討など対応すべき項目が非常に多くなります。特に非上場株式等は評価に時間を要しますので、税額の試算や移住に伴う出国税対応の検討にあたっては、余裕をもって進めることを推奨します。
また、国外転出時課税は、相続や贈与に1億円以上の有価証券などの対象資産が居住者から非居住者に移転した場合にも適用になります。ここでは説明を省略しますが、該当する場合はご留意ください。
【2026年度税制改正の主な内容】
昨年12月19日に2026年度の税制改正大綱が公表されました。自由民主党と日本維新の会という新しい連立の枠組での初めて立案された大綱でした。「強い日本」「世界で輝く日本」の実現を目指して、様々な改正項目が盛り込まれた税制改正でしたが、3月31日に国会の審議を経て成立するに至りました。
所感としては、昨今の物価上昇が国民の生活に影響を与えているという点から、「公平性」の確保を重視した所得税関連の改正が非常に多いことがあげられます。
・基礎控除の見直し(消費者物価指数の上昇率を反映)
・給与所得控除の最低保障額の見直し(同上)
・食事支給やマイカー通勤に係る手当の所得税非課税限度額の引き上げ
・住宅ローン控除の拡充
一方で、高所得者に対して、課税強化の傾向が強い税制改正になっています。
[所得税関係改正案]
◆極めて高い水準の所得者に対する負担の適正化措置の見直し(2027年分の所得税から適用)
・基準所得金額(各所得を合算した金額)から控除する特別控除枠を3.3億円から1.65億円へ大幅引き 下げ
・適用する税率を22.5%から30%に大幅引き上げ
◆ふるさと納税の控除限度額導入
[相続税・贈与税関係改正案]
◆貸付用不動産の評価方法の見直し
・被相続人等が課税時期前5年以内に取得等した貸付用不動産については、課税時期の通常の取引価額に相当する金額により評価
・信託受益権等に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産についても課税時期の通常の取引価額に相当する金額により評価
◆教育資金贈与の廃止(2026年3月末で終了)
なお、大変大きな注目を集めている暗号資産に対する課税に関連した改正ですが、金融商品取引法等の改正が前提となっていることから、譲渡時の分離課税や損失繰越の制度化実現はもう少し先になりそうです。
【富裕層を対象としたミニマムタックスとの関係】
1.富裕層を対象としたミニマムタックスとは
ミニマムタックスの対象となる方は、年間の合計所得金額がおよそ30億円超の納税者です。合計所得は、その年の給与所得に加え、株式の譲渡所得や配当、土地の譲渡など各所得を合計した金額です。そのため、M&Aにより株式を売却するケースや不動産を売却して一時的にその年だけ基準となる所得金額を超えてしまう場合にも適用されます。
◆2025~2026年度所得に適用されるミニマムタックス
(合計所得金額-3.3億円)×22.5%-通常の所得税額=追加納税額
◆2027年度以降の所得に適用されるミニマムタックス
(合計所得金額-1.65億円)×30%-通常の所得税額=追加納税額
2.出国税とミニマムタックス
2025年度の所得税申告より適用されている富裕層を対象としたミニマムタックスですが、出国税も譲渡所得に該当しますので、当然のことながらミニマムタックスの対象になります。2027年度の所得税申告から今回の税制改正が適用されますので、譲渡所得の金額によっては2026年中に出国した方が、2027年以降に出国するよりも所得税負担は低くなります。M&Aなどにより保有されている会社の株式を売却したあとに移住するケースなど、譲渡対価に比例して譲渡所得も大きくなるため、売却する年度によっては今回の税制改正の影響を大きく受けることになると想定します。
【海外移住をご検討される方へ】
2026年度の税制改正が成立したこともあり、富裕層への課税強化を受け、海外移住を検討されている方は多いと思います。上場株式等の売却や配当等を中心とした金融所得が大きい方は、2024年度までは15.315%の課税で完結していた所得税(住民税を除く)が、2025年度から22.5%に引き上げられ、2027年度から30%にまで税率が上昇するため増税感は非常に大きくなります。
今回の税制改正が大綱として公表された昨年末から、シンガポールへの移住検討のご相談を既にいくつか頂いております。前回と今回のニュースレターを通じて、ご移住前に対応すべき税務論点は多岐にわたることをご理解いただけたと思います。シンガポールへのご移住をご検討されている場合は、日本側で対応すべき事項に加え、シンガポール側でもビザの申請など移住のための準備が必要になります。標準的なケースでも、準備期間を含め半年は必要になります。2026年中の移住実現は、まだギリギリ間に合う頃合いかと思いますので、ご不明点や移住コンサルティングを希望される方はお気軽にお問い合わせください。
おわりに
今回は、よくある税務相談~国外転出時課税(出国税)+富裕層ミニマムタックス編~と題して、ニュースレターをお届けしました。次回、税務のテーマを取り上げるニュースレターは9月号になります。
シンガポールへの移住をご検討にあたり、移住や日本での税務対応に関する専門家をお探しの方は、お気軽にお問い合わせください。日本における税務対応に係るコンサルティングに加え、シンガポールでの法人設立やビザ申請、会計業務、税務申告など一連のサービスを日本語でワンストップ対応しています。
About the writer
片岡 宏将
【経歴】
静岡大学大学院人文社会科学研究科修了。2002年アタックス税理士法人に入社し、法人の税務顧問業務を中心に中小企業から上場会社まで幅広い法人を担当。
クライアントとの直接対話をモットーに、税務顧問、国際税務業務、税務コンサルティング業務等のプロジェクトマネージャーに従事。2019年5月よりASA Professionals Singaporeで、日本とシンガポール間における法人税や資産税にかかるクロスボーダー案件を担当。
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